富とジェリー

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悪役考察『加藤』(人をはかり損ねたつかの間の王)

加藤

本名:加藤 稔

登場作品:『アウトレイジ』『アウトレイジ ビヨンド

大まかな概要:

巨大暴力団「山王会」本家若頭

会長・関内の右腕として傘下の組員に直接命令を下す

二代目会長の座に収まった後は、山王会を過度な実利主義を掲げる組織に再編成し急成長させた一方で、古参の構成員を冷遇し反感を買うこととなる

 

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©『アウトレイジ ビヨンド』/オフィス北野

 

※ここから先は映画『アウトレイジ』及び『アウトレイジ ビヨンド』のネタバレをほんの少し含みます。

 

見方の一つとして、『アウトレイジ』シリーズは「組織の物語」であり、人間関係のパワーゲームのお話だといえます。

血で血を洗うヤクザの世界が舞台であるという設定がもたらすのは、ゲームに負けた後の「結果」が残酷な死であるという事実であって、戦いの構造そのものは政治や企業、ひいては友人どうしの対人関係にも当てはめることができます。

加藤はその性質を如実に体現するキャラクターです。

若頭時代の加藤は、会長・関内の傍らで常に彼の暴言に耐え、黙々と従い続けます

同じように溜息のつきたくなるような境遇に甘んじている大友と比べて、地位としてはずっと上にいる加藤ですが、その分実働の描写が少なく、暴力団というよりは一介のサラリーマンの憂鬱を描いているような哀愁を漂わせていました。

会長に出世してからも相変わらず粗暴さをほとんど見せず、声を荒げる時ですら、大企業のCEOのような、ステレオタイプのヤクザとは縁遠い風格をまとっているのが実に魅力的です。

それでいてしっかりと法律を犯し、人命に犠牲を出しているわけですから、悪役としてもユニークな存在だと思います。

水野(椎名桔平)と石原(加瀬亮)の個性に隠れがちですが、加藤のキャラクターもまたジャンルにおける新境地であり、監督自身が「みんな『やられたな』と思ったはずだよ」と言うように、このポジションに三浦友和氏を当てはめる采配は完璧中の完璧である気がします。

また、加藤は途中までは実質的な真の主役でもあり、二部作を通して栄枯盛衰がしっかりと描かれます。

その過程における変化も非常に興味深いです。

アウトレイジ』での加藤は「耐え忍び、最後に笑う側」つまり「分かっている側」の人物でした。

一部例外を除いて「調子に乗れば、しっぺ返しをくらう」が『アウトレイジ』シリーズの基本ルールであり、逆にいえばおごりたかぶらず、上司の理不尽に対して静かに歯を食いしばり続ける加藤は、例え悪人であろうとも後の成功が物語に約束されていたといえます。

実際、一作目のラストは加藤の完全勝利でした。

それがどうして再び地を這うこととなってしまったのか。

晴れて会長の座にのし上がった加藤は、物腰は温厚なままでも、その内面的な本質は、疑心暗鬼、拝金主義、排他的、度の超えた倹約家、そしてあまりにも人心掌握が不得手と、無印での印象とはうってかわって人間として隙だらけでした。

特に、いくら実力主義を志すとはいえ、年功序列をいきなり無視し、皮肉屋で不遜な石原が古参組員たちに吐く暴言をほとんどたしなめないというのはいかがなものか。

反旗を翻されてあたりまえです。

後ろめたい秘密を隠していたこと、相手が加藤以上の策謀のスペシャリスト花菱会であったことももちろん要因ですが、結局、器ではないのに調子に乗ったことが彼に敗北をもたらしたのでしょう。

アウトレイジ ビヨンド』は北野映画初の続編ですが、本作によって、一度「分かっている側」「最後に笑う側」として位置づけられた人間でも、それが半永久的に続くわけでも本質を照らしているわけでもないということが判明したわけです。

しかし、経済に通じる若い石原を登用して現代的なノウハウを吸収する、わずか数年で一暴力団を行政を脅すほどの組織に拡大させるなど、事業家としての彼の先見の明には目を見張るものがあります

能力そのものはあるのです。

信頼関係を軽んずる性格がいつか何らかの悲劇に発展するのは同じでしょうが、もしもヤクザの世界でなかったのならば、ワンマン社長として、子供に嫌われてしまう父親として、クラスをまとめられない教師として失敗した先で、また学習し、試行錯誤することができたのかもしれません。

加藤はいろんなところにいるのです。