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悪役考察『水野』(堕つべくして堕ちた狂犬)

水野

本名:不明
登場作品:『アウトレイジ
大まかな概要:
武闘派暴力団大友組の若頭
残酷な任務を淡々とこなす好戦的な冷血漢だが、親分への忠誠は厚い

 

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©『アウトレイジ』/オフィス北野

 

※ここから先は映画『アウトレイジ』のネタバレをほんの少し含みます。


大友組のナンバー2にして、組長(ビートたけし)の忠実な側近である水野は、これまでの北野映画であれば寺島進大杉漣が演じていた立ち位置の人物にあたると思います。

北野組の常連があえてはずされ、心機一転のオールスターキャストで彩られた本作では、様々な俳優が新たな側面や内に秘めた本来の味を覗かせましたが、水野は後者の筆頭だといえるでしょう。

 椎名桔平が元来持つ不気味な雰囲気、若い頃の北野監督自身にも通じる氷のような目、そしてチョイ悪どころではない「本当に悪い男」のかっこよさがすべてにおいて見事にハマり、奇跡の相乗効果を生み出しています。

 その個性が色物として用いられることもある椎名桔平ですが、彼の真骨頂はやはりこのような陰のあるクールでスタイリッシュな人間であると再確認させられます。

 水野はその中でも決定版だといえる完成度となっており、恐らくこのシリーズで最も高い人気を誇るキャラクターであることにも納得がいきます。

 組織の代表ではなく、また、加藤(三浦友和)・石原(加瀬亮)・木村(中野英雄)のように独自の目的を持たない水野は、(作為的な意味でも物理的な意味でも)話の展開を左右する要素をほとんど宿さず、もっぱら純粋な実働における活躍が目立つ点も特徴です。

 劇中では様々な相手を手際よく脅し、痛めつけ、葬り去り、非道な行為を楽しんでいるかのようにニヤニヤと不敵な笑みを浮かべます。

 そのような彼特有のポジションと視点が、策略と勢力争いの行きつく先に関わらない、別の枠組みで作品世界を観賞できる余裕を作り出しており、これは完全にメインストーリーのみに焦点を絞った続編『アウトレイジ ビヨンド』とは対照を成す構図だといえるでしょう。

 また、加藤や石原ほど不義理でも、大友や木村ほど情に厚いわけでもない、親分にだけは忠義を尽くすという立場も本作の中ではユニークで、彼の男気をさらに際立てています。

 しかし、あえて断言したいのですが、水野のかっこよさは事故だと僕は思います。

 何が言いたいのかというと、本来かっこよくなってはいけない登場人物が、かっこよくなってしまった結果が水野なのです。

 キャラクターとしては非常に魅力的な水野ですが、実際、彼を上司に持ちたいかと問われたら、「絶対に嫌だ」と答えます

 彼の持つ癇癪、陰湿さ、調子に乗る性質はうっすらと、しかし確実に画面に漂っており、特に石原と小沢(杉本哲太)は明らかにそれを嫌っています。

 その性格が彼のおぞましい末路を予言していたと解釈することも可能で、そういう意味では、物語全体に与える影響はわずかでも、彼自身の未来を決定する要素は多く示していたということになります。

中でも暗示色が強いのは、石原が落とした眼鏡を蹴るシーンと、目の前でタバコのポイ捨てをして若い警官に嫌がらせをし、しかしその上司の一括には逆らえなかったシーン(大友組崩壊の暗示でもある)。

 字面だけ並べるとかなりの小物であるという印象しか残さず、彼が思い上がり故に因果応報を受ける人物として設定されているということが分かりやすくなります。

 椎名桔平が演じたことによる奇跡のベストマッチによってクールさの方が目立つ仕上がりとなった水野ですが、恐らく脚本的な意図ではなかったのでしょう。

 

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