読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

富とジェリー

富を得たジェリーは変わってしまった。

悪役考察・第8弾『石原』(不埒過ぎたパイオニア)

悪役 考察 映画 邦画 アウトレイジ

石原

本名:石原 秀人
登場作品:『アウトレイジ』『アウトレイジ ビヨンド
大まかな概要:
暴力団大友組の組員で金庫番を務める
現代的な経済犯罪を得意とするインテリヤクザで、後に組の崩壊をしり目に本家の若頭に取り立てられ異例の大出世を遂げる

 

f:id:penguinoutrage:20160728185159p:plain

 
※ここから先は映画『アウトレイジ』及び『アウトレイジ ビヨンド』のネタバレをほんの少し含みます。


水野(椎名桔平)がシリーズで最も人気の高いキャラクターであるならば、石原はシリーズの顔であり、『アウトレイジ』を『アウトレイジ』たらしめているキャラクターです。

 

ダンな商業体系のノウハウに通じ、語学にも堪能な石原は、組織犯罪を「ヤクザ」というくくりで捉えることそのものに無価値を突きつける存在で、個人としては物語の中で最もシニカルな視点を持っています。

 

既存の任侠が示す旧来の価値観に背を向けるどころか小ばかにし、現代的な思考についてこれない者をはっきりと見下すその姿勢は、作品の位置づけにも通じるものがあり、彼のニューエイジヤクザっぷりがシリーズ全体の空気を決定しています。

 

重要なのは、彼が新しいタイプのヤクザであるということではなく、それでいてしかも従来の形態を一度完全に下したという点です。

 

アウトレイジ』の終盤、古いやり方しか知らない大友組の面々が次々と追い詰められてゆく中で、石原だけが手腕を見込まれ、敵方につくことで活路を見出しました。

 

この事実が、彼の能力を見抜いて取り立てた加藤(三浦友和)の時代の皮を被った「石原の時代」(石原のような人間の時代)の到来を宣言しており、もちろんそれは現実社会に対しても呼びかけられるものです。

 

一作目『アウトレイジ』のコンセプトとメッセージが擬人化した存在である石原は、加藤や片岡(小日向文世)と同様、新時代の代表として、旧時代の人間を出し抜くことが保証されていたのです。

 

実際、加藤との内通や組を裏切る絶妙なタイミングには神懸かり的なものがありました。

 

親分の恩を仇で返し、平然と仲間を売り、自分は抜け抜けと大出世を果たした石原ですが、そんな極悪人が勝利を飾っても、それが時代の流れであるのならば当然だと演出されるのも、まさに『アウトレイジ』らしい展開です。

 

そこに一種の爽快感すら覚えてしまうのは、本作の登場人物が「全員悪人」であるからだけではなく、彼がどうしようもない外道であるのと同時に、旧体制にメスを入れ、下剋上を達成する開拓者としての側面を持っていたからかもしれません。

 

しかし、続編『アウトレイジ ビヨンド』で描かれたその後の石原の台頭と躍進は、前作のような時代性の反映を逸脱している気もします。

 

前代未聞の栄転を遂げ、古参幹部たちを差し置いて本家若頭の座についたこと自体もそうですが、水を得た魚となった石原は、ゼネコンと国交省を仲介して内政に干渉したり、合法的なものも含めた巨大マーケットを展開したりするなど、やることの規模がとんでもないことになっています

 

もはや漫画的といってもいいくらいのえげつなさで、大友組にいた頃に手掛けていた闇カジノ経営とは比べ物になりません。

 

歴史から見ても物語の典型から見ても、ここまで登り詰めた者は後は堕ちるしかなく、正義の王が腐敗して悪に染まり革命を起こされるのであれば、元から大悪人である石原を待ち受けている運命の悲惨さは想像に難くありませんでした。

 

これらの順序を追うと、劇中の彼はほとんど加藤と運命共同体だったわけですが、石原の場合、その過程におけるキャラクターの変貌ぶりが加藤以上に際立っています。

 

アウトレイジ』での石原はまさに爪を隠す能ある鷹で、ボソボソと話し、汗をかかない、影のような存在でした。

 

武闘派たちが暴れ回る横で、無表情で経理を処理し、なにを考えているのか分からないその不気味さが彼の魅力だったのです。

 

普段ヤクザに扮しない加瀬亮の演技も、これ以上ないくらいにハマっていました。

 

アウトレイジ ビヨンド』では続投キャラクター全員に多少の変化が起こっていますが、石原は他の比ではない、別人といってもおかしくない豹変をさらけ出しています。

 

権力は人を変えるということなのか、極端に相性の悪かった水野がいなくなったからなのかは分かりませんが、本家若頭となった石原は、自分の倍は生きている古参の功労者たちに対して息を吐くように皮肉と暴言を吐く、傍若無人を地で行くような人物となっており、その不遜さも実績と比例して非現実的な段階に踏み込んでいます

 

その時点で、世相のメタファーという強力な後ろ盾を彼はとっくに失っているわけで、役割としては前作の彼とは本当に別人なのです。

 

また、裏切り者というレッテルを利用され、片岡には直接、布施(神山繁)には間接的に、本作の二大策士の両方から精神攻撃を受けてからは、統合失調症レベルの取り乱しを見せており、これもまた初めて露わにする一面で、そのギャップはもはやコメディの域に達しています。

 

唯一、彼の性格で一貫しているのは、「都合が悪くなると当たり散らす」という点。

 

アウトレイジ』において、売り上げの横領を隠すため、売人をしこたま蹴ってごまかした時と、『アウトレイジ ビヨンド』で自分を裏切者だと強調する片岡を殴った時の心理状態は同一のものでしょう。

 

地頭がいいだけに、追い詰められた時にのみ動物的になる術を知恵として獲得していたのかもしれませんが、本当の怒りと焦りもそこには含まれていたと感じます。

 

大友組若頭である水野は、そのような石原の繊細かつ幼稚な一面を見抜いていたと思われる節があり、石原が彼を嫌っていたのは、暴力を振るわれるからだけではなく、彼の視線と性格の悪さからくる独特の牽制が、目の上のたんこぶのようでうっとうしかったからではないでしょうか。

 

逆にいえば、水野は上司として、後に表面化する石原の人格の問題を的確に把握していたわけです。

 

もしも石原が大友組に留まり、組自体も存続する未来があったとしたら、友人として打ち解けるというのは絶対に無理でも、仕事の上でもう少し割り切れるくらいの関係は、そのうち築けていたのかもしれません。

 

本人はそう考えていなくても、武闘派の大友組がなぜか醸し出している妙なアットホーム感に石原はわりと馴染んでいるように見えました。

 

例えば、石原がカジノの取り分をめぐってグバナン大使を脅した際、恐らくアフリカ系の人間が文化的に蛇が苦手だということをわざわざ調べて用意したいやらしさなんて、けっこう水野に近いものがある気がします。

 

出世して成功した反面、策略の板挟みになり、半狂乱に陥るよりも、もとのままのポジションでいた方が彼にとって幸せだったのかもしれません。

 

悪人であることには変わりありませんが。

画像引用元・権利者:オフィス北野/ワーナー・ブラザース

(他の『アウトレイジ』考察はこちら↓)

悪役考察・第2弾『大友』(『アウトレイジ』のもう一つの見方) - 富とジェリー

悪役考察・第3弾『木村』(前世代の誇りと業を背負った哀しき獣) - 富とジェリー

悪役考察・第4弾『加藤』(「人」をはかり損ねたつかの間の王) - 富とジェリー

悪役考察・第7弾『水野』(堕つべくして堕ちた狂犬) - 富とジェリー