悪役考察『西野』(俗物にして傑物)
西野
本名:西野 一雄
登場作品:『アウトレイジ ビヨンド』『アウトレイジ 最終章』
大まかな概要:
関西一円を取り仕切り、後に日本最大勢力となった巨大暴力団「花菱会」の本家若頭
知略に長け実務に有能かつ、巧みな話術で相手を利用する策略家
©『アウトレイジ 最終章』//オフィス北野
※ここから先は映画『アウトレイジ』及び『アウトレイジ ビヨンド』『アウトレイジ 最終章』のネタバレをほんの少し含みます。
『アウトレイジ ビヨンド』における花菱会は、基本的に「加藤(三浦友和)の物語」に現れた化身でした。
故に、布施(神山繁)にしろ、中田(塩見三省)にしろ、そしてこの西野(西田敏行)にしろ、「人間」としての本性が非常に見えづらかった、というよりある意味「なかった」と言い切ってもいいと思います。
また、厳密に数値化できるわけではありませんが、策略を実行する際の「キャラ作り(演技の演技)」における動と静の割合が、布施=0:10、中田=10:0だったの対し、西野は6:4といった感じで中間を担当していたので、一段とシステムが具象化した存在であることが際立っていた気がします。
しかし、だからといって個人として考察できる余地がないというわけではなく、技術面・機能面から特筆すべき彼だけの個性はたくさんあります。
まず一つめは、情報力。
加藤・石原(加瀬亮)体制の不和どころか、本来山王会の人間ですら知らないはずの関内(北村総一朗)殺しの真相を当たり前のように察知している。
これだけでも、石原の商才並みに西野をキャラクタリゼーションし得るスキルだと思います。
恐らく『アウトレイジ』時点から既に、西野が送り込んだスパイが山王会内部に潜り込んでいたと僕は踏んでいます。
次に、交渉力。
この人、マウントの取り方が明らかに一人だけ違うんです。
数々の策士が入り乱れる本シリーズでは、誰もが二面性を持ち、使い分けていますが、それをブレンドさせることができるのは彼だけだと思うんです。
語彙、緩急、関西弁のリズムを巧みに操り、相手の虚にスルスルと入り込んで、空気の熱さ、冷たさ、硬さ、柔らかさを自在に操る。
そういうキャラクターってわりといるとは思いますが、天才・西田敏行の演技と天才・北野武の演出・編集が合わさることで、西野の場合はちょっと芸術を感じさせられてしまいます。
しかし、西野の最大の個性は認識力にあると僕は思います。
ちょっと主観的かつ象徴的な解釈になりますが、仁義に厚い大友(ビートたけし)の「外道」としての側面を看破したことや、ゲームマスターである片岡(小日向文世)を「あの馬鹿」と評してさらに俯瞰していたことから、最も神に近い位置で物語を見下ろすことができるのはひょっとしたらこの男であり、文字通りちょっと神通力めいた力を備えているんじゃないかな、と思うことがあります。
『アウトレイジ 最終章』では、彼の人格面での魅力も見られました。
それは、兄弟分である中田からの信頼から見て取れる人徳や、命の危機に瀕したり予想外の出来事が起こっても、それをある種コントのように捉えて構えられる器の大きさです。
そういう部分に目を向けると、実は大友ともかなり近い性質を持った男なのでは? という見方もできます。