富とジェリー

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マーベル・シネマティック・ユニバース(アベンジャーズ)総まとめ トニー・スターク考察

マーベル・シネマティック・ユニバース(以下MCU)とは、マーベル・スタジオ製作の映画が共有する一つの世界です。

アメリカンコミックは、出版社が同じであればほとんどの作品が繋がっているということは有名ですが、それを映画でもやってしまおうというのがこの一大企画です。

今回は、MCU「物語」という観点から掘り下げ、綿密に仕組まれたその構造を読み解いていこうと思います。

アベンジャーズ』考察

『アイアンマン3』考察

『エイジ・オブ・ウルトロン』考察

『シビル・ウォー』考察

も兼ねます。

 

1.未見の方のための超簡単基礎知識

 

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©Avengers:Age of Ultron/Marvel Studios

 

アイアンマン=トニー・スターク

天才発明家・エンジニア。

大企業「スターク・インダストリーズ」のCEOだったが、ある事件をきっかけに軍需産業から撤退し、自らが開発したパワードスーツを着込んで悪と戦うようになった。

 

ハルク=ブルース・バナー

天才科学者。

実験の失敗により、ストレスを受けると別人格の怪物に変身するようになった。

 

ブラック・ウィドウ=ナターシャ・ロマノフ

KGBのレッドルームで鍛えられた凄腕のスパイ。

その後は国際機関「シールド」に務める。

 

ソー=ソー・オーディンソン

異次元(外宇宙)に存在する「アスガルド」の王子。

北欧神話で神として描かれた「雷神トール」本人。

 

ホークアイ=クリント・バートン

ロマノフと同じくシールドに務めるエージェント。

狙った的を絶対に外さない世界一の狙撃手。

 

キャプテン・アメリカ=スティーブ・ロジャーズ

元来の高潔な心と、実験により得た身体能力によって、第二次世界大戦の英雄となった伝説の男。

世界を守るためにその身を犠牲にし、氷漬けとなっていたが、若い姿のまま現代に蘇った。

 

アベンジャーズ

上記のメンバーが結集した、世界を守るヒーローチーム。

 

クイック・シルバー=ピエトロ・マキシモ

スカーレット・ウィッチ=ワンダ・マキシモ

人体実験により、それぞれ超スピードと超能力を得た双子の兄妹。

トニーが間接的に関わった戦争孤児で、はじめはアベンジャーズを憎んでいたが、後に協力する。

 

ロキ=ロキ・ラウフェイソン

ソーの義兄弟。

ソーにコンプレックスを持ち、「王」になることを目論む。

 

サノス

ロキにチタウリの軍勢と魔法の杖を貸し与え、地球を狙わせた大ボス。

MCU全体の黒幕。

 

※ここから先はMCU作品群のネタバレをほんの少し含みます。

 

2.「アイアンマン」からひも解くMCU

「光あれ」とかけているのかどうかは分かりませんが、MCUで最初に登場したヒーローは、胸に光を宿した「アイアンマン」(=トニー・スターク)です。

MCUという群像劇における最大の主役は今のところアイアンマンであり、これまでの大きな流れは基本的に彼が中心となっています。

なので、彼を知り、彼の目線で追うことによって、MCUを一つの線で結ぶことができます。

彼がデビューした『アイアンマン』は、底抜けに明るい作風の映画で、同年に公開された『ダークナイト』と好対照をなしていました。

しかし、そのような「結果」はアイアンマンの一つの側面にすぎません。

テロ問題や死の商人などのえげつないモチーフに触れるアイアンマンは、表面的な作風とは裏腹に、かなりシリアスなテーマを背負ったヒーローでもあります。

また、トニー・スタークは、アベンジャーズの中で最も人間臭さが押し出されたキャラクターです。

一見、お調子者の天才プレイボーイに思えるトニーの心の内には、常に闇があります。

彼の根本的な行動原理は「不安」

自分が製造した兵器が人を傷つけるかもしれないという不安。

友人や仲間の命が悪に脅かされるかもしれないという不安。

そして、「不安」とそれへの「対処(=武装)」とは、アメリカ合衆国全体に通じるミームとして言及されることが多い要素です。

MCUでのアイアンマンは、アメリカの現状の投影というポジションを担当しているといえます。

ある時点までのトニーは、自身の生命を保つために、ヒーロー活動をしていない時でも胸に「アーク・リアクター」を埋め込んだ状態で生活していました。

これこそがまさに「現状」です。

さらに、怪物に変身する体質を二度と癒せない「ハルク」(=ブルース・バナー)が同じ物語の中にいることによって、トニーの「現状」は「呪い」となります。

この「呪い」は『アイアンマン3』でとけますが、私小説なレベルにおいては、ここで彼のお話はいったん完結しています。

 

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©Iron Man 3/Marvel Studios

 

しかし、時を前後して動き出した「さらに大きな物語」に既にトニーは巻き込まれており、そこからはなかなか抜け出すことができません。

ソーの物語です。

「ソー」(=ソー・オーディンソン)の登場は、宇宙文明の存在を示す決定的な大事件であり、彼が引っさげてきた「世界」にはロキが、チタウリが、そしてサノスが隠れています。

これら「外宇宙の脅威」への潜在的な不安が、『アベンジャーズ』で描かれた「チタウリ襲来(=ニューヨーク決戦)」によって現実となり、トニーは根深いトラウマを植え付けられることとなります。

つまり「呪い」がとけた後も、トニーのポジションはずっと同じで、相変わらず不安にさいなまれ続けているのです。

その不安が最悪の形で具現化したのが人工知能ウルトロンです。

 

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 ©Avengers:Age of Ultron/Marvel Studios

 

ウルトロンは、不安が頂点に達したトニーの手により、世界を守るため(=アベンジャーズの仕事をなくすため)に生み出されたプログラムです。

けれど、その設計理念とは逆に、世界を滅ぼそうとします。

このプロットはあまりにも使い古されていますが、ウルトロン自体のキャラクターは実は結構複雑で、「不安がもたらした災厄」以上の役割を担っています。

ウルトロンは、人工知能にしてはかなり感情的で、極めて人間に近いロボットです。

トニーにエディプス・コンプレックスを抱くだけでなく、マキシモフ兄妹の境遇に同情しておきながら、人類を滅亡させようとするなど、人間的な「相反する立場」の錯綜を実践しています。

ですが、ウルトロンには人間との決定的な違いがあります。

「両立」を理解できないことです

彼には、「相反する立場」の双方を両立させようという葛藤がありません。

迷うことなく「ヴィランとしての使命」を選んで、そのために行動することができますし、選ばなかった「人間としての感情」をわざわざ捨て去ること(両立が不可能になったと認識すること)も彼にとっては意味がないのです。

だから、大虐殺を繰り返した後でも、当たり前のようにスカーレット・ウィッチ(=ワンダ・マキシモフ)を心配していました。

ウルトロンは、感情的かつ独善的な、トニー・スタークの極端なパロディであり、同時に、「ヒーロー」と「人生」の両立に苦しむアベンジャーズの面々、特にアイアンマンと「ブラック・ウィドウ」(=ナターシャ・ロマノフ)に対して、機械ならではの「答え」をチラつかせる「if」なのです。

ただ、ホークアイ」(=クリント・バートン)だけは、とっくの昔に両立を果たしており、理解ある家族と幸せを手に入れています。

このコントラストが、トニーをより孤独にしていきます。

さて、ここからがMCUの面白いところです。

ここまでトニーの「人間らしい心の弱さ」を挙げていきましたが、もしも『アイアンマン』が単独シリーズであったとしたら、「ヒーロー」とはまさにアイアンマンのことです。

その場合「もろい心を持つ一人の『人間』がハイテクを駆使して戦う姿」というのが、この世界の「ヒーロー」のリアリティになりスタンダードになるわけです。

ところが、MCUには常人の精神性を超越した「漫画に出てくるような心力を持つガチのスーパーヒーロー」が別に存在しています。

それがキャプテン・アメリカ」=スティーブ・ロジャースです。

 

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 ©Avengers:Age of Ultron/Marvel Studios

 

自らを確実に犠牲にすることや、個人を信じることをためらわない彼は、よく言えば「高潔」悪く言えば「愚直」の象徴であり、トニーの影です。

自分の父親がスティーブにゾッコンだったことなどもあって、トニーは彼に対してコンプレックスをのぞかせていますが、二人の関係は、そういった対人関係の規格を超えたものでもあります。

「『アイアンマン』の世界」にキャプテン・アメリカみたいな人がいたら変だし、「『キャプテン・アメリカ』の世界」にアイアンマンみたいな人がいたら変。

それなのにお互いが同じ世界に存在しているという矛盾を体現してしまったのがMCUであり、彼らがしばしば対立するのは、言わば「物語VS物語」の争いでもあるのです。

両者の落としどころを見つけようとして結局見つけられなかったのが『キャプテン・アメリカ:シビル・ウォー』です。

袂を分かった彼らは、今後どのようにもう一度結束し、サノスに立ち向かうのか。

そして、新たに参加したドクター・ストレンジ(=スティーブン・ストレンジ)は、どう関わってくるのか。

それが今後のキーポイントとなってきます。