傑作だが前半は人を選ぶ 『ローグ・ワン』感想
『ローグ・ワン:スター・ウォーズ・ストーリー』は、実写としては(『イウォーク・アドベンチャー』以外』)初となる『スター・ウォーズ』のスピンオフ作品です。
エピソード4『新たなる希望』の冒頭で語られた、帝国軍と反乱軍によるデス・スターの設計図争奪戦が描かれ、そのままエピソード4へと繋がります。
つまり、実質的な「エピソード3.9」です。
※ここから先は『ローグ・ワン』及び『スター・ウォーズ』関連作品のネタバレをほんの少し含みます。
1.前半69点、後半120点
実は公開前は結構不安がありました。
「スター・ウォーズなのに普通の戦争映画に仕上げた」という大バクチと「ディズニーが脚本の書き直しを要求したらしい」という噂から考えて、微妙なデキになっている可能性も十分あったからです。
ところが、実際に見てみると面白い。
前半は及第点だし、後半は最高傑作級の完成度です。
まずは前半について述べていきましょう。
冒頭は、お馴染みのメインテーマが流れず、タイトルロゴも『ローグ・ワン』専用のもので、あらすじのスクロールも流れないという「お約束はずし」のオンパレードと共に幕を開けます。
しかし、ここで一番注目すべきなのは、主人公ジン・アーソの「過去」がいきなり直接語られるというところです。
この映画で我々が最初に目にするのは、帝国軍によって母を殺され、父をさらわれてしまう、少女時代のジンの悲惨なトラウマです。
実はこれは今までにない、シリーズにおいてかなり異質なアプローチです。
これまでの『スター・ウォーズ』は、一貫して「実録もの」によせた体裁がとられてきました。
すなわち、「英雄」アナキン・スカイウォーカーとルーク・スカイウォーカーを基点に置きながらも、あくまで時代の「公的なターニング・ポイント」を中心に据えることが「記録」のルールだったのです。
その点、『ローグ・ワン』の冒頭で描かれる「過去」は、シリーズが避けてきた「回想シーン」とは厳密には異なるにしても、明らかに「私的なドラマ」の視点でジンを紹介するものとなっています。
それを開幕と同時に持ってくることにより、『ローグ・ワン』は『スター・ウォーズ』と「同じ世界」ではあるが「同じ文脈」で語られるわけではないということが暗に示されているわけです。
なので、その後の物語を追うにあたっても、ジン以外の登場人物を観察するにあたっても、既存の『スター・ウォーズ』のノリをいったん忘れ、「『ローグ・ワン』の文脈」にチューニングを合わせて視聴する必要がでてきます。
それがスっとできるかどうかで、前半の印象はガラっと変わります。
正直いうと、僕はあまり上手くできませんでした。
前半のストーリーは、帝国軍の下で超兵器「デス・スター」を設計させられたゲイレン・アーソを、娘のジン・アーソと反乱同盟軍の仲間たちが探すというものです。
このように表面だけなぞると、だいぶ「冒険」をかたどったプロットにも思えますが、それは本当に「かたどっている」だけで、実際は、根底に流れている「私的かつ暗い人間ドラマ」が本筋となります。
そうなってくると、「理解」はできても、「楽しめる」レベルにまで自分の「見方」を操れるかどうかは、やはり猛烈に人を選ぶのです。
個人的には、つまらなかったわけではないんですが、ターキン総督の登場が最大の見せ場だったな、というのが前半の感想です。
だが、後半は面白い。
本当に面白い。
後半では、いよいよデス・スターの設計図を奪いにいくにあたって、バラバラの思惑を抱いていた仲間たちが真に結束し、『ローグ・ワン』が誕生します。
「私的なドラマ」の参加者だった彼らが同じ方を向き、支流が本流となり、そして「歴史」を変える。
けれど、彼らは決して「英雄」として崇められ、記録されるわけではなく、「人間」として未来を守り抜く。
熱すぎます!
戦いそのものについても、かねてよりコンセプトとして挙げられていた「戦争映画っぽさ」とオマージュをふんだんに用いた「『スター・ウォーズ』っぽさ」のバランスが完璧で、とてもワクワクさせられます。
サービスシーンの入れ方も極上です。
あえてラストは伏せますが、ジェダイではない人々の己を盾にする戦い、ぜひご鑑賞あれ。
2.キャラクターについての所見
ジン・アーソ&ゲイレン・アーソ
本作の主人公とその父親。
ジンは当初、自分の「過去」そのものに縛り付けられていましたが、キャシアンらと知り合い、ゲレラや父親と再会することによって、彼女の思いは銀河全体を憂うものへと変化していきます。
その変化を見逃すと後半の行動原理が意味不明になるので、注意が必要です。
余談ですが、演じるフェリシティ・ジョーンズがわりとアニメ声なので、吹き替えの方が大人っぽいという現象が起きているのがちょっと面白いです。
ゲイレンは、マッツ・ミケルセンが演じているだけあって、本作の最重要人物でした。
また、さんざんファンの間で議論されてきた「テス・スターの弱点むき出し問題」に解答を与えてくれた存在として、今後も語り継がれることでしょう。
キャシアン・アンドー
反乱同盟軍の「闇」を象徴するキャラクター。
正義の反乱軍も、暗殺、スパイ、身代わりなど、色々な形で手を汚してきたという、「よく考えると当たり前なんだけども……」な実情を体現していきます。
ソウ・ゲレラ
アニメにも登場した歴戦の士。
反乱軍とは別の組織を率いる苛烈なゲリラですが、彼もキャシアンらに通じるところがあります。
キャシアンのダーティさも、ゲレラの愚直ともいえる過激さも、「生き方を選べない」現状が生み出したものであって、その錯綜がドラマになっているわけですね。
チアルート・イムウェ&ベイズ・マルバス
途中からジンたちと合流した、盲目の体術の達人と、その相棒である銃器の達人。
暗い前半にキレッキレのアクションと爽快感をもたらしてくれるので、貴重な二人組です。
シリーズ初となる、アジア系の重要キャラクターたちですが、チアルートは明らかに『座頭市』を参考にしたキャラなので、できれば日本人に演じて欲しかったです。
でもまあ、ドニー・イェンレベルの伝説なら彼でもいいか、とも思います。
ところで、既に本作を見た方は、彼らが初登場時に務めていた「ウィルズの守護者」とはなんぞや? と思われたのではないでしょうか。
「ウィルズ」は『スター・ウォーズ』で最もミステリアスな裏設定の一つで、歴史の保存や、フォースの深淵に関わっているとされています。
ルーカス色が強く、かつ、いつまでも明かされる気がしない謎だったので、ここにきて断片だけでも触れられたのは意外でした。
K2SO
キャシアンの相棒のドロイド。
思ったことをそのまま口に出してしまうのはC-3POと同じですが、内容が辛辣なのでまた違う笑いを誘います。
コメディリリーフかと思いきや、後半、まさかの大健闘。
オーソン・クレニック
本作初登場となる、帝国軍幹部。
ジンの母を殺した憎き張本人ですが、根っからの苦労人気質かつ色んな意味で精神的に常人なので、皇帝の子飼いの傑物であるターキンやヴェイダーの能力とは折り合わず、彼らにパワハラを受けまくり、同情を誘います。
グランド・モフ・ウィルハフ・ターキン
デス・スターといえばターキンなので出ないわけがないのですが、役者がとうの昔に亡くなっているので、どうやって出すのかが気がかりでした。
エピソード3『シスの復讐』では、顔が似ているとされる人物が演じていましたが、あれは遠景で数秒映るだけだから許されただけで、ちゃんとアップにしたらあまり似ていないことが分かってしまいます。
なので、今回がっつり映るならCGによる再現が妥当なのかなとは思ってはいましたが、まさか本当にやるとは。
たまにカクカク動くのがCGぽいなと一瞬感じたりもしましたが、エピソード4を見直すと、この人、元からカクカク動くんですよね。
実はこだわりの再現だったわけです。
今回のターキンも、持ち前の冷酷さを遺憾なく発揮し、ある意味ヴェイダー以上の存在感を放っています。
また、クレニックの手柄をうまく横取りする狡猾さも見せますが、そういうところも含めてパルパティーンはターキンを気に入っているのでしょうから、つくづくクレニックは報われません。
公開直前頃に「ひょっとしたら意外に出番が多いのでは」とささやかれていましたが、そんなこともなく。
ですが、インパクトは相当強いです。
エピソード5『帝国の逆襲』と並び、歴代シリーズ最高クラスの怖さ。
日本でいうとゴジラとか貞子もそうですが、一度ポップカルチャーとして浸透してしまったヴィランの怖さをここまで取り戻せるのってすごいことです。
あと、登場時にプリクエル要素を拾ってくれたのも嬉しかったです。